月初の請求書発行は、フリーランスや個人事業主にとって避けて通れない作業です。ExcelやWordのテンプレートを使い回している方も多いと思いますが、毎月フォーマットを整え直したり、源泉徴収の計算を手書きで埋めたりするのは地味に時間を取られます。
この記事では、Excel・Wordの請求書テンプレートに代わる選択肢として、ブラウザだけで請求書を作って PDF 出力できる方法を紹介します。月1〜数枚しか発行しないフリーランス向けに、SaaSを契約するほどではないけれど安心して送れる書類を作りたい、という温度感のニーズに合わせて作りました。
請求書作成ツールは登録不要・無料・PDF出力対応で、インボイス制度の登録番号や源泉徴収にも対応しています。
フリーランスが請求書で迷うポイント
最初に、フリーランス・個人事業主が請求書を作るときに迷いがちな項目を整理します。Excelのひな形をダウンロードしただけだと、このあたりの判断は自分でしなければなりません。
- 登録番号(T+13桁)の有無 — インボイス制度の登録をしているか、免税事業者として通常請求書を出すかで記載が変わります
- 源泉徴収あり/なしの判断 — 業務内容や取引先からの指示によって異なります
- 振込先・振込手数料の明記 — どの銀行口座にいくらで振り込んでもらうか、手数料を誰が負担するか
- 支払期限の決め方 — 月末締め翌月末払いなのか、納品から30日後なのか
- 件名(タイトル)の書き方 — 「請求書」だけで良いのか、案件名を入れるのか
これらは1度自分のルールを決めてしまえば毎回悩む必要はありません。後半の職種別記入例も参考にしてください。
請求書テンプレート3種類の使い分け
請求書作成ツールでは、用途別に3つのテンプレートを用意しています。フリーランスがよく使うのはBですが、取引先や送付方法によって使い分けてください。
| テンプレ | 用途 | 印影 | 宛名位置 |
|---|---|---|---|
| A 封筒窓対応 | 印刷→長3封筒で郵送 | 電子印影あり | 封筒窓(90×45mm)に合う位置に固定 |
| B PDF送付用(デフォルト) | メール添付・チャット送付 | 電子印影あり | 余白を広めにモダンな配置 |
| C 印鑑スペース付き | 印刷→物理印鑑→送付 | 朱色点線円(物理印鑑用) | 伝統的な書式 |
テンプレA:封筒窓対応(郵送用)
大企業や官公庁との取引で、原本郵送を求められる場合に使います。長3封筒(窓付き)に三つ折りで入れると、宛名が封筒の窓にぴったり収まる設計です。地方の取引先や、検収印を押した原本を返送するスタイルの会社では今でも紙のやり取りが残っています。
テンプレB:PDF送付用(メール添付・デフォルト)
フリーランスが一番使うのはこれです。クライアントワークの大半はメール添付かチャット(Slack・Chatwork等)でのファイル送付になるので、画面で見ることを前提にした余白広めのデザインにしています。迷ったらこのまま進めてください。
テンプレC:印鑑スペース付き(印刷→印鑑→スキャン)
「請求書に印鑑が押されていないと受け取れない」と言われた場合に使います。印刷して物理印鑑を押し、スキャナーで取り込んでPDFにする運用です。電子印影で問題なければBで構いません。
職種別の請求書 記入例
ここからは、フリーランスでよくある4つの職種について、品名・単位・税率・源泉徴収の書き方の具体例を紹介します。実際の請求書ではプロジェクト名や納品物名で書き換えてください。
デザイナー(グラフィック・Web)
デザイン業務は所得税法上の源泉徴収対象です。報酬から10.21%(100万円超部分は20.42%)を差し引いて記載します。
- 品名例
- 「ロゴデザイン制作費」
- 「Webサイトデザイン(5ページ)」
- 「バナー制作(A/Bテスト用2案)」
- 単位:「式」が一般的(時間単価制なら「時間」)
- 税率:10%(軽減税率対象外)
- 源泉徴収:あり(10.21%)
備考欄に「ラフ提案2回・修正2回まで含む」のような作業範囲を明記しておくと、追加発注の判断がスムーズです。
Webエンジニア(受託開発・SES)
エンジニアリング業務は原則として源泉徴収の対象外です(業務委託の場合)。ただし契約形態によっては源泉対象になることもあるので、初回取引時に取引先に確認しておくと安心です。
- 品名例
- 「Webサイト構築(基本料金)」
- 「保守費用(月額)」
- 「機能追加開発(ユーザー認証実装)」
- 単位:「式」「月」「人日」など
- 税率:10%
- 源泉徴収:なしが一般的(契約による)
月額の保守契約であれば「2026年5月分」のように対象期間を備考に書いておくと、取引先の経理処理が楽になります。
ライター(記事執筆・編集)
原稿料は源泉徴収の対象業務の代表例です。1記事ごとに請求するか、月締めでまとめて請求するかで品名の書き方が変わります。
- 品名例
- 「コラム記事執筆(1記事3,000字)」
- 「インタビュー記事執筆(取材込み)」
- 「校正・編集費」
- 単位:「本」「件」「文字」
- 税率:10%
- 源泉徴収:あり(10.21%)
月にまとめて請求する場合は、品名に「2026年5月納品分(5本)」と書いて、備考行に各記事タイトルを入れると整理しやすくなります。
コンサルタント
コンサル業務(特に専門的助言)は源泉徴収対象に含まれることが多い業務です。顧問契約の月額フィーで請求するパターンが多めです。
- 品名例
- 「コンサルティングフィー(月額)」
- 「ワークショップ実施費(4時間×1回)」
- 「戦略レビューミーティング(×2回)」
- 単位:「月」「式」「回」
- 税率:10%
- 源泉徴収:あり(10.21%)
顧問契約の場合は「2026年5月分顧問料」のように月を明記し、契約番号や契約期間を備考に入れておくと、契約更新時の確認が楽になります。
源泉徴収の判断と計算
源泉徴収は、特定の報酬を支払う際に支払い側があらかじめ所得税を差し引いて納付する制度です。フリーランスにとっては、入金額が請求金額より少なくなる代わりに、確定申告時に控除される金額として扱われます。
源泉徴収の対象になる業務
国税庁の規定では、フリーランスがよく行う業務のうち以下が対象です(個人事業主に支払う場合)。
- 原稿料・講演料
- デザイン料(広告デザイン・服飾デザイン・グラフィックデザイン等)
- 翻訳料・通訳料
- イラスト制作費
- 弁護士・税理士・社労士など士業の報酬
エンジニアリング(プログラミング・システム開発)は通常対象外ですが、契約形態によっては源泉対象になることもあります。
計算式(2026年5月時点)
報酬額が100万円以下の場合:
源泉徴収税額 = 報酬額(税抜) × 10.21%
報酬額が100万円超の場合:
源泉徴収税額 = (報酬額 - 1,000,000) × 20.42% + 102,100
10.21%・20.42%という半端な数字は、所得税率10%(または20%)に復興特別所得税(×1.021倍)を上乗せした結果です。
「源泉徴収ありか分からない時」の対処法
源泉徴収すべきかどうかは支払い側(取引先)が判断するルールです。フリーランス側で迷ったら、取引先の経理担当に「源泉してください」と言われたらON、何も言われなければOFFで問題ありません。判断に迷う業務の場合は、初回取引時に確認しておくのが確実です。
確定申告時には、源泉徴収された金額が「源泉徴収税額」として支払調書に記載され、所得税の前払い分として精算されます。青色申告であれば、これらの数字は会計ソフトに月ごとに記録しておくとスムーズです。
振込先の書き方
振込先の記載は、フリーランスの請求書で意外と間違いが多い箇所です。次の5項目を漏れなく書いてください。
- 銀行名:「○○銀行」(メガバンクなら正式名称、地銀・信金も正式名称)
- 支店名:「○○支店」
- 口座種別:普通/当座(個人事業主はほぼ「普通」)
- 口座番号:7桁(ゆうちょは記号と番号の2行)
- 口座名義:カタカナ表記(屋号がある場合は屋号も併記)
振込手数料の負担
振込手数料を取引先に負担してもらうか、自分で負担するかは事前に確認しておきましょう。フリーランスの場合は取引先負担が一般的ですが、長期契約や継続案件では自分負担にする慣習もあります。
請求書には次のような文言を入れます。
取引先負担の場合(一般的)
振込手数料は貴社にてご負担くださいますようお願い申し上げます。
当方負担の場合
振込手数料は弊方にて負担いたします。
ネット銀行(楽天銀行・GMOあおぞらネット銀行・PayPay銀行など)を使うと振込手数料が安く、相手にとってもメリットがあります。事業用に1つ口座を分けておくと、確定申告時の集計も楽になります。
支払期限の決め方
支払期限は契約時に決まっていることが多いですが、新規取引で取引先から指定がない場合は、こちらから提案する形になります。フリーランスでよく使われるのは次の2パターンです。
月末締め翌月末払い
5月分の作業をすべて月末で締めて、6月末に支払ってもらうパターン。フリーランスにとって資金繰りが組みやすく、最も一般的です。
月末締め翌々月末払い
大企業との取引で多いパターン。5月分が7月末入金になるため、初回取引時は1〜2ヶ月分の運転資金を見込んでおく必要があります。
末日が土日祝にあたる場合は、翌営業日にずれるのが一般的です。詳しい計算方法は締め日・支払日の計算方法で解説しています。
請求書のファイル名・保存ルール
PDFで送るときは、ファイル名にもひと工夫しておくと取引先からの好感度が上がります。
推奨ファイル名
請求書_{宛先名}_{YYYYMMDD}.pdf
例:請求書_株式会社○○_20260531.pdf
宛先名と発行日が入っていれば、取引先の経理担当がフォルダで管理しやすくなります。逆に「invoice.pdf」「請求書.pdf」のような汎用名は、ダウンロードフォルダで上書きされる事故の原因になるので避けましょう。
自分用の保管(電子帳簿保存法)
2024年1月から電子帳簿保存法が完全施行され、電子取引のデータは原則として電子保存が義務化されています。フリーランス・個人事業主も対象です。
- 発行した請求書のPDFを取引先名・年月ごとにフォルダ分けして保存
- 保存期間は原則7年(青色申告の場合)
- タイムスタンプや訂正履歴の記録は、月数枚程度ならファイル名で対応可能
PDF送付方法の具体的な手順は別記事で詳しく解説しています。
月1〜数枚なら無料ツールで十分
クラウド型の請求書発行サービスは月額1,000〜3,000円程度が相場ですが、月1〜数枚しか発行しないフリーランスにとっては明らかにオーバースペックです。請求書1枚あたり数百円のコストになってしまいます。
請求書作成ツールは次の特徴があるので、Excel運用とSaaSの中間の選択肢として使えます。
- ブラウザ完結:インストール不要・OS問わず利用可能(Mac/Windows/iPad/スマホ)
- 登録不要・無料:アカウント作成もメールアドレス登録もなし
- PDF出力:A4縦の体裁の整ったPDFをブラウザ内で生成
- localStorageで発行者情報を再利用:氏名・住所・登録番号・振込先は2回目以降自動入力
- インボイス制度対応:登録番号を入れれば適格請求書の必須6項目を満たしたPDFを出力
- 源泉徴収・複数税率の自動計算:10%/8%混在、100万円超の累進計算にも対応
宛先・品目情報はサーバーに送信されず、ブラウザ内だけで処理されるので、取引先や金額の情報が外部に残る心配もありません。
よくある質問
Q. 開業届を出していなくても請求書は出せますか?
A. はい。請求書の発行に開業届は必須ではありません。副業フリーランスの方でも、屋号や個人名で請求書を発行できます。ただし、年間の所得が一定額を超えると確定申告が必要になり、青色申告のメリット(最大65万円控除)を受けるには事前の開業届と青色申告承認申請書の提出が必要です。
Q. 屋号と個人名のどちらで請求書を出すべき?
A. 取引先との契約に合わせるのが基本です。契約書や見積書で屋号を使っているなら請求書も屋号、個人名で契約しているなら個人名で出します。振込先口座の名義と一致させると、取引先の振込時のミスを防げます。
Q. 免税事業者でも請求書に消費税を書いていい?
A. 書いて構いません。免税事業者でも商品・サービスの価格に消費税相当額を含めて請求できます。ただしインボイス制度の登録をしていない場合、取引先は仕入税額控除(経過措置中は80%)しか受けられないため、価格交渉が発生する可能性はあります。
Q. 源泉徴収された金額はどう扱えばいい?
A. 確定申告時に「源泉徴収税額」として記載し、所得税の前払い分として精算します。年末に取引先から送られてくる「支払調書」に源泉徴収額がまとまっているので、保管しておきましょう。会計ソフトを使っている場合は、入金時に源泉徴収額を「事業主貸」または「仮払税金」として記録します。
Q. Excelのテンプレートと比べて何が良いの?
A. 主に3点です。(1) 源泉徴収・複数税率の計算式を毎回コピーする手間がない、(2) インボイス制度の必須項目(登録番号・税率ごとの消費税額など)が自動で揃う、(3) PDFのレイアウトが崩れる心配がない。Excelの方が慣れていて速い、というのであればもちろんそのままで構いません。月数枚以上発行するなら、ツール化のメリットが出てきます。


